子どもがおもちゃを誤って飲み込む事故が数多く起きています。
事故を防ぐためには、年齢や発達に配慮したおもちゃを選ぶことが重要です。
この記事では、注意が必要な年齢、事故の実例、おもちゃ選びの5つの鉄則、万が一に備えた対処法などをくわしく解説します。
誤飲とは、食べ物以外の異物を誤って飲み込んでしまうことです。
小さな子どもは、とくに誤飲に注意が必要です。
子どもの口は、入口から喉までの距離が短いため、口に入れたものが喉に入り込みやすい構造となっています。さらに、吐き出す力も未熟です。
そのため、おもちゃを口に入れてしまうと、誤飲する可能性が非常に高くなります。
誤飲事故に注意が必要なのは何歳くらいでしょうか?
厚生労働省の調査では、家庭における子どもの誤飲事故のうち、約91%が0~5歳で起きていると報告されています。
また、おもちゃの誤飲は、3歳未満の乳幼児、とくに生後6か月~1歳6か月未満が最多とのアンケート結果もあります。
個人差はありますが、手でつかんだものを何でも口に入れると言われる、生後5~6か月ごろからは、とくに誤飲に注意が必要です。
また、おもちゃの誤飲事故は赤ちゃんだけでなく、成長に伴い行動範囲が広がっていく幼児にも起きています。
小さな子どもがいるママやパパは、子どもの誤飲リスクを意識した上で、おもちゃを選びましょう。
具体的にどのようなおもちゃの誤飲事故があったのでしょうか。
実際に起こった事故の一部を見てみましょう。
夕食後、家族が目を離しているすきに、同日昼に薬局でもらったスーパーボール(直径20mm)を飲み込んで窒息。母親が指を入れてボールをとろうとしたが、喉にはまり込んでいて取り出せなかった。病院に救急搬送されたが、その後、死亡した。
2つに分離できるレモン形の木製ままごとセット(直径39mm)の半分を口に入れていた。「口にいれちゃダメ」と母親が注意した直後に口から出せなくなり、救急車を要請した。
救急隊が到着した際は、ぜいぜいと息をしていたが、受け答えは可能だった。
しかし、搬送中に心肺停止状態となった。
中に磁石が入っているマグネットパズルが破損し内部の磁石は紛失していた。
誤飲の目撃はなかった。
嘔吐を繰り返すため病院に行き、レントゲンを撮ると異物が認められた。
家族への問診で磁石の誤飲が判明した。
腹痛はなかったため自然排泄を待ったが、なかなか排泄されず、入院し処置を行った。
盲腸には穴が開いていて、付近で2つの磁石がくっついていた。
立体パズルとして、さまざまな形を作れる200個以上のマグネットボール(直径3mm)セットの一部を誤飲した。
嘔吐が続くため、病院を受診するとレントゲンで数珠状に連なる球状の異物が確認された。母親への問診でマグネットボールだと判明した。
磁石同士がくっつくことで、腸に穴も開いていた。
外科手術により、合計37個のマグネットボールが取り出された。
また、何度かにわたり誤飲していた事実が判明した。
この他にも、「水で膨らむボールを誤飲」「魚釣りセットの釣り竿をかじって、竿に付いていた磁石を誤飲」「壊れたハンドスピナーの部品を誤飲」「シールを飲み込んだ」など、おもちゃの誤飲事故の種類は多種多様です。
また、重大な誤飲事故が相次いだため、政府は2023年6月より、マグネットセット・水で膨らむボールの販売規制を始めると発表しました。同時に、小さい子どもがいる場合は購入しないように呼びかけています。
日本小児科学会の傷害速報には、国内で起こった子どもの誤飲事故の詳細が報告されています。
胸が痛むような悲惨な内容の事故も多く、誤飲の恐ろしさを再確認できるでしょう
おもちゃの誤飲を防ぐための鉄則は、5つあります。
順番にくわしく見ていきましょう。
子どもの口の大きさは3歳児で約4センチで、トイレットペーパーの芯の直径とほぼ同じです。
トイレットペーパーの芯に入るおもちゃは、小さな子どもの口にすっぽり入ってしまうため気をつけましょう。
また、誤飲予防のために、誤飲チェッカーと呼ばれるグッズを使用するのもおすすめです。誤飲チェッカーは直径39mm・奥行51mmで、3歳の子どもが口を大きく開けたときとほぼ同じ大きさで作られています。
誤飲チェッカーの中に入るものは、子どもが誤飲する危険性があります。
子どもが飲み込める大きさのおもちゃは持たないようにするのが、一番の誤飲予防策です。
トイレットペーパーの芯や、誤飲チェッカーを使って、誤飲の可能性があるおもちゃが身近にないかチェックしてみましょう。
日本玩具協会の安全基準に合格したおもちゃには「ST(Safty Toy=安全玩具)」マークが表示されています。
STマークは、14歳以下の子ども向けのおもちゃに表示され、安全面に注意してつくられたおもちゃである証です。
また、STマークがあるおもちゃには必ず対象年齢も記載されています。
対象年齢が低いおもちゃは、喉に詰まりづらい大きさに設計されているなど、子どもの誤飲予防に配慮されています。
おもちゃを選ぶ際は、STマークの有無もしっかり確認しましょう。
マーク参照:日本玩具協会
STマークがないおもちゃや手作りのおもちゃは注意が必要です。
サイズや形状が子ども向けではなかったり、安全性の評価も不確定なため、子どもが誤飲しやすい可能性があります。
例えば、シリコンや木製のビーズをつないだハンドメイドの歯固めジュエリーを覚えているでしょうか。
一時期、SNS発信で流行した、赤ちゃんの歯固め用のおもちゃです。
小さなビーズを使って手作りされており、SNS映えするかわいい見た目で人気となりました。
しかし、誤飲という観点から考えると危険なおもちゃのひとつと言えるでしょう。
流行しているおもちゃであっても、本当に子どもにとって安全であるか、しっかり確認した上で購入や使用を検討しましょう。
おもちゃに記載された対象年齢は、子どもの発達や安全を考慮した上で指定されています。おもちゃを購入・使用する際は必ず対象年齢を守りましょう。
また、兄姉がいる場合には注意が必要です。
自分たちには安全なおもちゃであっても小さい弟や妹には危険であると、兄や姉に伝えましょう。使用後は、きちんと片付けるように説明するのも大切です。
子どもの手が届く範囲は「台の高さ+手が伸ばせる範囲」と言われています。
目安となる長さは、1歳児で約90cm、2歳児で約110cm、3歳児で約120cmです。
「台の高さ+手が伸ばせる範囲」が、目安以下の長さであれば、台の上に置いてあるものに手が届いてしまいます。
例えば1歳児の場合、台の高さが50cmであれば、台の高さから40cm以内の範囲に置かれたものには手が届いてしまいます。
ママやパパは、日ごろから兄や姉のおもちゃが乳児の手が届く範囲に放置されていないかしっかりチェックしましょう。
イラスト参照:政府広報オンライン
使用前に取れそうな部品や壊れそうなところがないか確認しましょう。
また、おもちゃを使った後は、数が揃っているか数えるのも大切です。
お下がりをもらったり、新たに買い足したりと、子どもの成長と共におもちゃはどんどん増えていきます。
数が多くなればなるほどおもちゃのチェックを行うのは大変です。
古くなったおもちゃや、使用していないおもちゃは定期的に整理し、おもちゃの状態を確実にチェックできる環境を整えましょう。
とろみがある液体といっしょにおもちゃを口に入れると誤飲しやすくなります。
おもちゃそのものは、喉に詰まりにくい形であったとしても注意が必要です。
実際に、口の中におもちゃを入れたまま、離乳食を食べたことが誘因となって起きた誤飲事故もあります。
ミルクや離乳食の時間には、子どもの手が届く範囲や口の中におもちゃがないか、しっかりチェックましょう。
子どもがおもちゃを喉に詰まらせた場合の症状と、緊急時の対処法を解説します。
万が一誤飲事故が起きたとしても、できるだけ早めに誤飲事故の発生に気付き、応急処置を行うことが大切です。慌てず対処できるように準備しておきましょう。
子どもがおもちゃを誤飲した場合に見られる症状は、次のようなものです。
・喉を押さえる、口に指を入れる
・声を出せない ・苦しそうに呼吸している ・突然顔色が悪くなる |
おもちゃが喉に詰まり、息ができない窒息状態になると、約3~4分で顔が青紫色に変色し、5~6分で意識がなくなります。そして、心臓が止まり大脳が傷害されると、15分程度で脳死状態となってしまいます。
おもちゃの誤飲を疑う症状があれば、一刻も早く救急車を呼びましょう。
救急車を呼んだ場合、現場に到着するまでの平均時間は8.9分です(2021年度総務省発表資料より)。
子どもの誤飲に気付いた後、救急車到着までの8.9分間に何もしなければ、症状が悪化し心停止に至る可能性があります。
救急車到着までの間に、喉に詰まった異物を吐き出させることがとても重要です。
誤飲後、子どもに反応があれば、1歳未満の乳児には「背部叩打法(はいぶこうだほう)」と「胸部突き上げ法」を交互に行います。
1歳以上の幼児には「腹部突き上げ法(=ハイムリック法)」を行います。
【背部叩打法】
うつ伏せにした乳児の体を介助者の腕に乗せ、手の平であごをしっかり支えます。反対の手の平の付け根で背中をしっかり叩きましょう。(1セット=5~6回)
イラスト参照:政府広報オンライン
【胸部突き上げ法】
仰向けにした乳児の体を介助者の腕に乗せ、手の平で後頭部をしっかり支えます。両乳首を結ぶ線の真ん中少し下側の胸を2本指で押しましょう。胸の厚みが約3分の1沈む深さになるまで強く圧迫します。(1セット=5~6回)
イラスト参照:政府広報オンライン
【腹部突き上げ法(=ハイムリック法)】※1歳未満の乳児には行わない
背後から両腕を回し、介護者の片方の手を握りこぶしにして、子どものみぞおちに当てます。反対側の手で握りこぶしを握り、腹部を上方へ圧迫しましょう。
イラスト参照:政府広報オンライン
これらの応急処置を、異物が取れるか、意識がなくなるまで続けます。
意識がなくなった場合は、ただちに心肺蘇生を始めましょう。
子どもの心肺蘇生の方法は、日本医師会「子どもの一次救命処置の手順」に詳しく記載されています。
また、子どもの誤飲時の症状や、緊急時の対処法は、政府インターネットテレビ「窒息事故から子どもを守る」でも動画でわかりやすく解説されています。
万が一に備えて、誤飲時の応急処置や心肺蘇生法を確認し、しっかり身につけておきましょう。
▲窒息を疑ったら(筆者作成)
どんなに素敵なおもちゃでも、口に入りやすい大きさのものや安全基準を満たしていないものは誤飲事故につながります。子どもの命を守るためにも、おもちゃを選ぶときは誤飲の危険がないか、細心の注意を払う必要があります。
また、小さな子どもがいる家庭では、いざという時に備えて、誤飲時の応急処置の確認を必ず行っておきましょう。
著者:オグラエリカ
雑誌編集者として都内出版社に約10年勤務後、突然看護師を志し、周囲を驚かせる。ひとまわり以上年下の同級生に「オグねぇ」と呼ばれながら看護学生ライフを満喫。新人看護師時代も見た目は主任クラスで院内をざわつかせる。内科病棟、小児科・内科外来、内視鏡室等を経験後、医療ライターとしての活動を開始。プライベートでは1児のママ。
参考:
・厚生労働省 2018 年度 家庭用品等に係る健康被害病院モニター報告
・消費者安全調査委員会 消費者安全法第23条第1項の規定に基づく事故等原因調査報告書
・日本小児科学会 傷害速報 No.47 木製おもちゃの誤嚥による窒息の類似事例 3
・日本小児科学会 傷害速報 No.66 磁石と鉄球の誤飲による小腸穿孔の類似事例 10
・日本小児科学会 傷害速報 No.66磁石と鉄球の誤飲による小腸穿孔の類似事例1
・国民生活センター 暮らしの危険 乳幼児による水で膨らむボール状の樹脂製玩具の誤飲にご注意!
・消費者庁 Vol.397 危険!ハンドスピナーの部品の誤飲に注意して
・消費者庁 Vol.566 包装フィルムやシールなどの誤飲に注意!
・経済産業省 子供の安全のため玩具への新たな規制が導入されます
・政府広報オンライン「えっ?そんな小さいもので?」子供の窒息事故を防ぐ!
・消費者安全調査委員会 消費者安全法第23条第1項の規定に基づく事故等原因調査報告書 玩具による乳幼児の気道閉塞事故